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完全に、俺を標的とする瞳だった。
折れた爪が治り、より太く鋭くなる。魔力に覆わて威力は強大であろうし、並の戦闘員だとあれは防げない。というかむしろ塵になる。
下手に価値のある武具よりも余程危険な凶器が俺へと向けられた。
逡巡する間もない。
対処しようとする身体を、むしろ意識的に抑え込んだ。
頭で鳴る警告を全力で無視するのは割と厳しかったのはある意味経験になった。
何もしないまま、俺へと命を刈り取る鉤爪が襲いかかると同時──眼前スレスレの所で弾かれる。
ルヴィの防御魔法だ、と瞬時に分かった。
「……危なかった」
思わずポツリと声が漏れる。
視線をずらせば全方向を囲む結界。弾いた、ということは光属性魔法<<ミラーカウンター>>か。
仮にも上級魔法を無詠唱で……しかも防ぎきるとか。もうそこは気付かなかったことにしよう。
むしろ俺を守るという意識がちゃんとルヴィにあったことが驚きだ。まぁ、そこに賭けた訳だが。
その間にもユーストの攻撃は続いており、弾かれても弾かれても、狂気に満ちた瞳を向ける。
即興で放った魔法も次第にヒビが入っていく。
「ハル、今の内に逃げろ。庇う余裕は無い」
固いが通る声が鼓膜を震わせる。俺は顔をルヴィへと向けて、態と困惑の表情を見せた。
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