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自然と漏れたユーストのその言葉を聞いた時、名前呼びのことかと思わず小さく笑う。
あぁ、知ってたよ。存在を認められたいと渇望していたことも、家名ではなく名前で呼べば酷く分かり辛くとも嬉しそうな顔をしていたことも。
俺は基本的に人を家名では呼ばない。愛称か名前で呼ぶのが普通なので、ユーストを特別扱いした訳では決して無い。
仲が良いということも無く、ちょっかいを出していた相手であるルヴィは兎も角も俺自身は関わりもかなり少ない為、そもそも呼んだ回数もそれ程多くない筈だ。
それでも、彼──ユーストにとって。
「ガルナーが……お前、だけ……が。僕を……ユーストと、見てくれ……てるよう、な」
ずっと独りだった不器用で哀れな彼にとって。
「……そんな気が……したんだよ……」
俺の存在は、限りなく大きかったようだった。
だから己が死ぬと知ってしまった時、本当の独りになってしまうと衝動的になり、気が付けばギルドの地下牢から脱出しここまで来た、と。
嗚咽に混じり、途切れ途切れに紡がれた言葉を逃すことなく聞き取り、簡素に纏めるとそういうことらしい。
……ここにアゼルがいれば爆笑した後、俺を見ながら愛されてるなぁ?とか何とか言って面白がるな、多分。
割と関係ないことを頭の隅で考えながら、顔を伏せたユーストへと静かに歩み寄る。
どう考えても到着が遅いが、さすがに追っ手がまもなく現れるだろう。
それまでの間、俺は彼へ選択を求めることにした。
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