6292人が本棚に入れています
本棚に追加
あ、と小さな声が思わず零れた様子を見て薄く笑う。ギルドの高ランク保持者みたいにローブを羽織りフードでも被ってれば否が応でも認識し続けるんだろうけど。
起きた時に着せられていたTシャツにズボン姿からそのまま薄いベージュ色のコートに袖を通しただけの俺は、最早普段着だと言われても過言ではなかった。
『今のでお前の不安要素は消えたんなら、時間が惜しいし本当にさっさと行くぞ』
返事を待たず、俺は部屋を出る。薄暗い廊下と、壁に飾られた名画の数々。その光景を邪魔しないように置かれた美術品達も相まって、1つの美術館のように思えた。
さーて、どうしようかな。俺が考えているのは一人ひとり殺しに行くのは手間なので、広い場所に全員呼び寄せてその場で皆殺し──なのだが、場所の選択に思考を巡らせる。
初めはそこそこに広かったユーストの部屋にしようかとも考えたが、まさかの物置小屋にされていた。彼のいた痕跡は抹消である。驚異の行動力。
即座に選択肢から外し、広く、また演出的にも良いかとダンスホール会場に決定する。
ああいう煌びやかな会場で起こる悲劇的な物語っていうのも幾つかあったなぁと。
スタスタ、というよりは癖で足音を立てず歩く俺に慌てて背後から付いてくるユーストの気配がして、犬みたいだなと失礼なことを思ったのは内緒だ。
最初のコメントを投稿しよう!