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「耐えられないかもしれない」
意識しなければ到底拾えなかったであろう、微かな声。顔だけを後ろに向けるとほぼ同時、ユーストは横切って前に出る。
「でも、それでも僕が望んだことだ。今更逃げない」
決意を感じる強い言葉だった。思わず瞳を丸くする俺を置いて、彼は躊躇いもなく扉を開けた。
……うん、楽しくなってきた。
高揚する感情と比例して笑いそうになる頬を宥めながら、彼の後について足を進める。
豪華なダンスホール。老若男女が煌びやかな衣装を着て集まるであろう会場には、寝間着に身を包んだ4人が現在転がっている。
動きと声と魔法の使用を封じているので静かだが、彼等の意識はある。明かりを付けたこの空間では誰が見ても憤怒していることは明白だった。
特に1人は面白い程顔が真っ赤だ。取り敢えずソイツの声だけ解放してみるか。
「ッ、貴様ら!我々に何の用だ!復讐のつもりかそこの才能のないクズがッ!!身の程を弁えろ!!ふざけるな、ふざけるなふざけるな!こんなことして……ッ許されると思うなよぉぉ!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
反射的に耳を塞いだ。ユーストもだ。
口元以外の自由を許されず、溜め込んだ感情を吐き出す様は獣のようである。制限を解いた瞬間に暴れ出すのは必至だな。
その後も口が裂けるのではと疑る程激昂は止まらない。むしろ他の3人が咆哮に晒されて怒りが鎮圧している。
あれが、ユーストの父であったバスティ・セアルダか。
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