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俺からしてみれば、激憤する様は醜いだけで当主の威厳は残念ながら感じない。この咆哮にも等しい怒号に魔力や殺気が乗っていたなら兎も角も、ただ感情に任せて喚く子供にしか見えなかった。
「……いい加減に耳障りだな」
全身の動きを固定された状態で叫び続けられる体力と喉の丈夫さにはある種の感心は覚えるが、それだけである。五月蝿いし、話が全く進まない。
スタスタと足を進める。バスティではなく、妻のココットの方へ。
ひたすらバスティが発する騒音レベルの罵倒の声量に耐えていたのだろう、彼女は俺が目の前に現れたことには気付かなかった。……いや、ユーストに意識を向けていたバスティも、カルサもダルも。
気付いていたのはユーストだけだった。
漸くココットが困惑気味に見上げたその瞬間、俺は細い喉を蹴り上げた。
軽々と吹っ飛んでいき、壁に激突して床に倒れる。喉が腫れ上がった彼女は体の自由が効かない為に悶絶すら出来ず、そのまま気絶する。
一瞬にしてダンスホール会場は静まり返る。
バスティを見やれば、先程までの態度が嘘のように青ざめた顔色で目を見開いていた。声もなく口が何が、と動いたのを捉える。
「次、やかましく喚いたらお前の妻と同じようにその喉潰すぞ」
別に威圧した訳でも何でもなく淡々と告げただけだったが、彼の表情は一層強張り、歯を食いしばった。
「さーて、少しだけ話し聞かせてもらおうか、セアルダ家の皆さん?」
残り3人の首から上の制限を解除しながら、俺は微笑みを浮かべた。
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