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己が発した一言がきっかけだったのか、彼は咳が切れたように叫び出す。
「いやだ、いやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!」
まるで幼い子供の様にワンワンと泣き喚きながら嫌だ、死にたくないを繰り返す。顔面を涙と鼻水で濡らし、死への恐怖から逃れようとしていた。
カルサ・バスティ。バスティ家当主の次男であり、ユーストの弟。
「死にたくない死にたくない嫌だ嫌だ嫌だ!!助けてくれ!!まだ死にたくないんだ!!助けてくれよ!!父さん!!爺ちゃん!!」
俺とは決して目を合わせない、視線だけをぎょろぎょろと動かして父と祖父に語り掛ける。そんな息子、或いは孫の様子を見た2人は顔があからさまに強張った。
「ユースト、来い」
殺しを幾度もやってればこんな光景はそれこそ幾度も見てきた。冷静に思考を纏めると俺はユーストを呼んだ。まもなく、横へ並ぶ。
「……アイツ、助かりたいんだってさ、死にたくなくて、生きたくて泣いてる。貴族の尊厳なんか捨ててな。顔をぐしゃぐしゃにして、それでも生に縋りつこうとしている。それって」
そこで一度言葉を切る。カルサの瞳がユーストを映したからだ。お互いの視線が交差する。
「ユ ースト、ユ、あ、あにき、兄貴、兄さん、兄様、兄様!!助けてくれよ!!なぁ!!頼むから!!お願いです助けてください!!まだ生きたいんです嫌なんです死にたくないんです!!僕はまだ」
「──貴様、どの口でそれを言うんだ……?」
激しい憎悪が込められた台詞で、カルサの懇願は遮られた。殺気にも似た激情をぶつけられた弟はヒッと小さな悲鳴を上げる。
赦される訳ないのにな、と続けようとしたのはもう閉じる。代わりに質問を紡ぐ。
「まず、お前らはユースト・セアルダから家名を奪い、処刑しろって国に命じたのは間違いないな?」
おお、一瞬で顔面蒼白になったな3人とも?
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