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それまで俺の魔法によって眼前の惨劇を強制的に見せつけられ続けたココットは、たすけて、たすけてと狂った人形のように同じ言葉を繰り返す。
そんな彼女へ、足を進める。
返り血を浴びすぎた身体は踏み出す度に髪や衣服から血が滴り落ちる。振り返れば赤い道が出来ているだろうが、見向きもせずに真っ直ぐココットを射抜くように見つめた。
へたり込む彼女へ手を伸ばせば届く距離まで迫り、そっと屈む。魔法は既に解いているのに決して俺を見ようとしない為、乱れた髪を乱暴に掴んで持ち上げた。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!いやぁぁぁぁッ!!お願い、お願い、たすけ」
うるさ。
反射的に頬を殴って黙らせる。意識は飛ばさない程度に留めたから大丈夫大丈夫。
もう一度力を入れて方向を向き直らさせ、醜い顔に浮かぶ黄金色の瞳をじっと射抜く。……母親似か、なんて思いつつ口を開いた。
「そんなに、死にたくないか?」
囁く。瞳がほんの少し、揺らいだのが分かった。畳み掛けるように続ける。
「殺されるのが、怖いか?」
囁く。
「どうしても、生きたいか?」
優しく微笑んで、囁く。
瞳に光が宿る。希望を見出し輝きが生まれる。既視感を覚えたその光景は、ここへ来る前にユーストが見せた様子と似ていた。あぁやっぱり母親似、だな。
「そうだなぁ……、じゃ、そこにいるユーストに誠心誠意、謝罪でもしてもらおうか?」
現時点でこの場に相応しくないであろう割と明るめの声色で案を提示する。一度静まり返る会場だったが、今まで静観を貫いていたユーストが声を荒げた。
「……え、いや、どういうことだよ!?僕は聞いていないんだが!?」
大きな動揺が背中越しに伝わるが、一旦彼は放置してココットの髪を手放して再度問う。
「謝罪するか、しないか。どっちだ?」
──言い切るや否や、彼女は小さな声を発した。
ごめんなさい、と。
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