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「それは、何でしょうか」
「野口の殺人が、完全犯罪にならんで済んだって事かもしれんな」
「あぁ、そうですよね」
酒出の重苦しい言葉に、松本は素直に頷いた。
もしも沖田が野口を殺害しなければ、完全犯罪になっていたかもしれない。
酒出はそれを救いと言いつつも、はっきりと断言しなかった。それは、警察官のプライドがそうさせたのであろう。
全ては、野口の暴行事件が隠蔽されなければ。
自分の欲の為や、理由無く無差別に殺人を行う者がいる。そんな輩に、同情する余地など無い。だが、殺人を犯した人間の全てがそうだとは言えない。
殺人を、犯してしまった理由。
時代劇のように、事件が勧善懲悪と言えない時。刑事は、やるせなさを感じるのだ。
今の酒出も、そうであった。
刑事とは、そうした事件をその都度乗り越え。新しい事件へと、立ち向かって行かねばならない。
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