第二章 容疑者

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  「野口 久司という人物をご存じですか?」 「野口さん、ですか?」 「えぇ、料理評論家の野口 久司氏です」  有実は、数秒間だけ記憶を辿る。 「いえ、知りませんけど」 「本当ですか?」 「はい。その名前に記憶は無いですし、料理評論家の人に知り合いはいませんから」  そう言われた刑事は、その答えに眉を潜める。そして上目遣いで有実を見て、表情から真意を探ろうとする。  しかし、嘘をついているようには見えなかった。  そこで、野口の写真を有実に差し出してみる。だが、やはり反応は薄く知人では無いと答える。戸惑いつつ、刑事は事情聴取を続ける。 「ある方から、この野口氏とあなたが言い争っているところを見たと。そういった話しがありましてね」 「そう言われましても、知らないものは知りませんから」 「二月十三日の夜九時頃。あなたのご自宅近くの路上で、言い争いをしませんでしたか?」
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