第二章 容疑者

44/47
前へ
/327ページ
次へ
   刑事は、あくまで物腰柔らかに問い掛ける。  現実的な日時を出され、有実は改めて記憶を辿った訳では無い。だが、瞬間的に記憶が蘇ったようだ。 「あれが、あの事が言い争いって言うのかな……」 「どうかしましたか?」 「刑事さんが言っていた時間に、その場所で酔っ払いに絡まれました」 「酔っ払い。それが、この野口氏ですか?」 「分かりません。あまりに酔っていて、タチが悪そうでした。なので、関わらないように逃げました。だから、顔も見てませんけど」  二人の刑事は、顔を見合せ戸惑いの表情を浮かべる。  目撃者の沖田の供述や、近隣の聞き込みでは明らかに言い争いである。有実の言う話しとは、若干のズレがあるように思える。  言い争いは、男女が双方から言葉をぶつけ合う。だが、酔っ払いに絡まれ逃げたとなると、一方的に責める形になろう。  仮に、その声だけでも聞き違う事は無い。
/327ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2671人が本棚に入れています
本棚に追加