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刑事は、あくまで物腰柔らかに問い掛ける。
現実的な日時を出され、有実は改めて記憶を辿った訳では無い。だが、瞬間的に記憶が蘇ったようだ。
「あれが、あの事が言い争いって言うのかな……」
「どうかしましたか?」
「刑事さんが言っていた時間に、その場所で酔っ払いに絡まれました」
「酔っ払い。それが、この野口氏ですか?」
「分かりません。あまりに酔っていて、タチが悪そうでした。なので、関わらないように逃げました。だから、顔も見てませんけど」
二人の刑事は、顔を見合せ戸惑いの表情を浮かべる。
目撃者の沖田の供述や、近隣の聞き込みでは明らかに言い争いである。有実の言う話しとは、若干のズレがあるように思える。
言い争いは、男女が双方から言葉をぶつけ合う。だが、酔っ払いに絡まれ逃げたとなると、一方的に責める形になろう。
仮に、その声だけでも聞き違う事は無い。
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