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「七星の家って靴屋だったっけ?」 「お店なんて開業した覚えはないよ。」 仕方なく、無数に脱ぎ散らかしてある靴を一つずつ並べる。 最後に私とイチの靴を並べた。 突き当たりの紺色の暖簾から台所に顔を出した。 「お母さん。」 と呼ぶと、 「あら、お帰りなさい。」 母はくるり、と体をこちらに向け、エプロンで手を拭った。 私は持っていたエコバッグから、買ってきたカレー粉とお酢を渡した。 「あら。七ちゃん、イチ帰ってきてたのね。お帰り。」 振り返ると、イチの母が空になったビール瓶を、お盆で器用に運んでいた。 なんというバランス感覚。 「今日、何かあるの?」 私がイチママの持ってきた瓶を片付けてながら問うと 「流くんが久しぶりに帰ってくるんでしょ?」 あんた、忘れてたの?と母は言った。 ・・・ええ、忘れてましたとも。
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