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鵺「それは仕方ありません。引退された旦那は今でもお忙しいのですから」
「若旦那となった君ほどではない。仕事に弟探し、さすがに疲れただろう。」
鵺「俺は別に……。苦労したのはきっと弟の方です」
そう言って僕を見るご主人様。勘違いではなく、やっぱり僕が弟なのだろうか?
「…………」
鵺「大丈夫か?」
「僕…弟なんですか?」
鵺「覚えてないか……、小さかったからな。」
それは僕が弟という了承?
「名前は何て言うんだい?」
「わかりません」
「わからない?」
鵺「調べたところ、学校では偽名でした。学校を転々として、毎回名前を変えていたようなので……。恐らく、ヤクザへの追跡を逃れるためのものかと。だからわからないというのは本当です。それに俺の知る弟に名前は存在しません」
「可哀想に……。」
可哀想?何が?
鵺「可哀想なんかじゃないですよ。この子に名前がないのは俺にとって嬉しい。あんな奴がつけた名前を一生ものにしたくはないですし。名前は俺が決めます。では、そろそろ行きます。いつまでもこのままにはしておけないんで。旦那はどうされますか?」
「私は見定めを楽しんでいこう。近くに護衛もいるだろうから大丈夫だ。迎えもまた呼ぶ」
鵺「わかりました。じゃあ、行くぞ」
「は……え?」
返事をしようとしたとたん、すぐ抱き上げられる身体。訳がわからなくてご主人様を見上げる。
鵺「やはり、軽いな」
「すみません…」
重さを知りたかっただけか……。びっくりしちゃった…。
鵺「いや、気にするな。これからはある程度肉もつく」
「?」
食べ物という食べ物を食べて来なかった僕に肉がつくんだろうか?今更食べ物が変わることはないだろうし……。しっかりとした食べ物は調理実習や給食で知ったもの以外に知らない。どれも食べさせてもらえなかったし、給食は一度しか見たことないけど。
だってそのお金を父は払ってくれなかったから。給食だってそうだ。見るだけが辛いから、その時間が終わるまでトイレに籠った。一度見たのはパンとサラダとカレーライス、どんな味なのかとても気になったけど、みんなのを見る以外できなかった。
ぎゅるる~
「……っ…」
食べ物のことを考えてお腹が鳴った。ご主人様を不快にさせてないか慌てて見るけど、静かに笑われただけだった。
鵺「可愛いな」
それだけ言って僕を抱き上げたまま歩き始める。可愛いもわからなければ、僕を降ろさない意味もわからない。
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