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たくさんの人がいた。
どこからわいて出たのか、たぶん百人近くいるだろう。
草原という場所は変わっていない。なのにたくさんの人がキョロキョロとあたりを見回していた。
俺と同じように。
「ではミッション開始です。三分後にバグを放ちます」
先ほどの青年の声とともに、全員が一斉に何かを探し始める。
「オイ、早くしないとバグが来るぜ!」
「白い鍵……白い……」
きっと、コード・エスケープとやらを探しているのだろう。
「森だ!きっと森の中にある!」
誰かがある方向を指さした。
目を凝らすと、さっきまで無かった森が、すぐそこにある。走って五分くらいだろうか。
誰もが我先にと、森を目指して走り出した。
俺もつられて走り出す。
そして道半ばのところで、再び彼の声が聞こえた。
「三分経過。バグ放出、バグ放出……」
バグ?虫か何かか?
そう思って振り向く。俺の周りの人たちも、立ち止まってそれを見た。
大きな黒い点が現れた。
それは縦に、横に、奥に、手前にざーっと広がり、何かを形作る。
それは赤い目と黒いドット線の尻尾が特徴的な、白い狼だった。
そいつは何体も何体も召喚されていく。
その血走った目を見た瞬間、俺は直感的に理解した。
こいつは……敵だ。
最初の獣が逃げ遅れた一人に目を付けた。
そしてその女性にあっという間に飛びかかり、首筋に噛みついた。
鮮血が、大地を染めた。
その場にいた全員が、何が起こったのか理解できなかった。
その女性さえも、抵抗もせずに奴らの餌になっている。
これは悪い夢だ。こんなことが現実に起こるわけがない。
逃げたいのに、脳神経がマヒしているのか、足が動かない。
ただ目だけが機械のように、起こる光景を映し続けた。
俺らを嘲笑うかのように残酷な現実を。
突如、彼女の体が消滅した。
血も、肉も、骨も、全てが。
飛び散ったはずの血痕も消え、草原は元の緑を取り戻している。
さっきまで彼女のいた空間には、青い文字が浮かんでいた。
『DELETE』――消去、と。
獣は、次の獲物は誰かと口を開き、よだれを垂らした。
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