NEW GAME

5/20
前へ
/200ページ
次へ
たくさんの人がいた。 どこからわいて出たのか、たぶん百人近くいるだろう。 草原という場所は変わっていない。なのにたくさんの人がキョロキョロとあたりを見回していた。 俺と同じように。 「ではミッション開始です。三分後にバグを放ちます」 先ほどの青年の声とともに、全員が一斉に何かを探し始める。 「オイ、早くしないとバグが来るぜ!」 「白い鍵……白い……」 きっと、コード・エスケープとやらを探しているのだろう。 「森だ!きっと森の中にある!」 誰かがある方向を指さした。 目を凝らすと、さっきまで無かった森が、すぐそこにある。走って五分くらいだろうか。 誰もが我先にと、森を目指して走り出した。 俺もつられて走り出す。 そして道半ばのところで、再び彼の声が聞こえた。 「三分経過。バグ放出、バグ放出……」 バグ?虫か何かか? そう思って振り向く。俺の周りの人たちも、立ち止まってそれを見た。 大きな黒い点が現れた。 それは縦に、横に、奥に、手前にざーっと広がり、何かを形作る。 それは赤い目と黒いドット線の尻尾が特徴的な、白い狼だった。 そいつは何体も何体も召喚されていく。 その血走った目を見た瞬間、俺は直感的に理解した。 こいつは……敵だ。 最初の獣が逃げ遅れた一人に目を付けた。 そしてその女性にあっという間に飛びかかり、首筋に噛みついた。 鮮血が、大地を染めた。 その場にいた全員が、何が起こったのか理解できなかった。 その女性さえも、抵抗もせずに奴らの餌になっている。 これは悪い夢だ。こんなことが現実に起こるわけがない。 逃げたいのに、脳神経がマヒしているのか、足が動かない。 ただ目だけが機械のように、起こる光景を映し続けた。 俺らを嘲笑うかのように残酷な現実を。 突如、彼女の体が消滅した。 血も、肉も、骨も、全てが。 飛び散ったはずの血痕も消え、草原は元の緑を取り戻している。 さっきまで彼女のいた空間には、青い文字が浮かんでいた。 『DELETE』――消去、と。 獣は、次の獲物は誰かと口を開き、よだれを垂らした。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加