ある女性

2/7
前へ
/7ページ
次へ
 私は今日も、教会に通い祈る。  祈りは毎日、同じだ。  彼女の記憶が戻らないことを祈る。心の底から。そして、この生活がずっと、続くことを。  私は某大学病院に勤務している精神科の医者である。病院内でも、それなりの地位と名誉を築き上げたキャリア組だ。そんな、私が彼女に出会ったのは、冬が間近に迫った、ある秋晴れの日のことだった。  私はその日、いつものように患者の診察を行おうと診察室へと向かっていた。その途中、足が止まった。数部屋離れた病室に見慣れぬ人がいたからだ。それは、警察官だった。制服をきた警察官が病室の前に立っていた。 「どうかしましたか?」  私は興味本位で警察官に声をかけた。病院内に、警察官がいるのは珍しいからだ。特に事件が起きたという話も聞かされていない。もっとも、それは本物であればの話だ。私が受け持つ患者の中には、自分は警察官だと思い込んでいる人もいるからだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加