17人が本棚に入れています
本棚に追加
――七色の道を鼻歌を歌いながら渡り、雲を抜ければ、そこには星の海が広がっていました――。
御伽話の一説を声に出して読み、その文字列をそっと撫でる。
ここにある沢山の本の全てに、世界がある。人がいる。夢がある。希望がある。
なのに、読み手がいない。読まれないから全ては伝わらず、語られない希望だけが積もっていく。
せめて、自分だけでもいることを伝えたくて、本の一節を声に乗せる。乗せ続ける。
――船は、男の子を乗せて星の海を進みます。あちこちでキラキラ光る星を見て、男の子は大喜び。
その時、星の子どもが船に落ちてきました――
読むのを止め、本を閉じる。本棚に戻そうとして、目をやる。
長い時間をかけて収集した本が、いつ読まれるとも知らないまま眠っていた。誰かに読んでもらいたいという希望と、そんなことは二度とないのではないかという不安を抱えたまま。
本たちのそんな思いを確かに感じつつ、部屋の明かりを灯す。本たちについた埃を掃除して、準備は万端。
いつものようにシャッターを開け、来ない人を待つ。
「さて、今日は誰か来るかな?」
もうお決まりになってしまった独り言を呟きながら、店のカウンターに腰掛ける。
鳥のさえずりを聞きながら、来ないお客を待つ。
『ここは、「後伽書店」。
少々特殊な本を扱っております。
興味のある方はぜひ足を運んでください。
また、お宅にあります書物を買い取らせていただきます。お気軽にご相談ください』
そんな宣伝文を書いたチラシでも作ろうかと思いながら、結局実行せずに閉じた本を再読する。
誰も来ず、邪魔されることなく読み進めていた本は、唐突に終わりを告げる。
――星の子どもは、お母さんに会えないまま、大人になりました――。
そんな一文とともに。
まだ来ない、まだ会えない人間を待ちわびる気持ちが、強くなった。
最初のコメントを投稿しよう!