プロローグ

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 ――七色の道を鼻歌を歌いながら渡り、雲を抜ければ、そこには星の海が広がっていました――。  御伽話の一説を声に出して読み、その文字列をそっと撫でる。  ここにある沢山の本の全てに、世界がある。人がいる。夢がある。希望がある。  なのに、読み手がいない。読まれないから全ては伝わらず、語られない希望だけが積もっていく。   せめて、自分だけでもいることを伝えたくて、本の一節を声に乗せる。乗せ続ける。  ――船は、男の子を乗せて星の海を進みます。あちこちでキラキラ光る星を見て、男の子は大喜び。  その時、星の子どもが船に落ちてきました――    読むのを止め、本を閉じる。本棚に戻そうとして、目をやる。  長い時間をかけて収集した本が、いつ読まれるとも知らないまま眠っていた。誰かに読んでもらいたいという希望と、そんなことは二度とないのではないかという不安を抱えたまま。  本たちのそんな思いを確かに感じつつ、部屋の明かりを灯す。本たちについた埃を掃除して、準備は万端。  いつものようにシャッターを開け、来ない人を待つ。 「さて、今日は誰か来るかな?」  もうお決まりになってしまった独り言を呟きながら、店のカウンターに腰掛ける。  鳥のさえずりを聞きながら、来ないお客を待つ。  『ここは、「後伽書店」。  少々特殊な本を扱っております。  興味のある方はぜひ足を運んでください。  また、お宅にあります書物を買い取らせていただきます。お気軽にご相談ください』 そんな宣伝文を書いたチラシでも作ろうかと思いながら、結局実行せずに閉じた本を再読する。  誰も来ず、邪魔されることなく読み進めていた本は、唐突に終わりを告げる。 ――星の子どもは、お母さんに会えないまま、大人になりました――。  そんな一文とともに。  まだ来ない、まだ会えない人間を待ちわびる気持ちが、強くなった。
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