九月一日

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 昨夜は疲れていたようで、夢も見ないほどに深く眠っていたらしい。  朝の目覚めは思った以上に爽やかで、ベッドから抜け出して軽くストレッチした際の関節の鳴る音さえ心地良い。  クローゼットから制服を引っ張りだして手早く着替え、寮内にある学食へ向かう。  昨日は寮内の設備に目をやる余裕はなかったが、一階に食堂と大浴場、二階にラウンジなどがある。 「あ、おはようございます~」  食堂に入ると、昨日フラワーズで見たウェートレスが迎えてくれた。  昨日は店の制服だが、今朝は私服だ。 「君は確か、昨日の……」  一応、確認してみる。 「はい! フラワーズのバイト、陽ノ下葵といいます!」  やはりか。  バイトの掛け持ちだろうか?  否、初対面の相手の事情をあれこれ詮索するものじゃない。  そう思いながら名乗り返し、 「また寄らせてもらうよ」  と、当たり障りのない言葉を返して、今朝のおすすめを注文する。  メニューはトースト二枚に目玉焼き、コーンポタージュとグリーンサラダ。  うむ、見事なブレックファストである。 「あ!」  料理を持ってきた陽ノ下さんが何かに気付き、そちらへ小走りに駆け寄っていく。  釣られて見ると、昨日見かけた男女二人組が驚いた様子で陽ノ下さんを見ていた。  どうやら知り合いらしい。  やれやれ、妙な縁があるものだ。
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