2.渇きと潤い

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「いや、父さんはもう一度学生に戻って女の子にラブレターを出しまくりたいぞ」 「……何を言ってるの?」  画面を激しく操作している父親が大笑い。見た目は真面目そうだが厳格という言葉からは程遠い性格をしていた。 「あぁ……眠たい」  うちの両親は2人揃って医療関係の職に付いている。土日にも一部診療している珍しい病院。要領の悪い息子と違ってエリートだった。  だけど順風満帆な家庭かと言われたらそうでもない。その原因は3年前に再婚した夫婦という関係性。しかも理由は不明だが親戚から猛反対された上での婚姻だった。  2人とも宿直勤務したり、寮に泊まる事も多いから帰って来ない日も珍しくはない。自分が起きるより前に家を出て行く場合もある。なのでこうして朝から揃って食事をとる事は一般家庭の平均に比べて少なかった。 「雅人(まさと)香織(かおり)起こしてきて」 「え?」  テーブルにもたれかかっていると名前を呼ばれる。血の繋がっていない母親に。 「誰それ?」 「なに寝ぼけた事言ってんのよ。私の可愛い娘でアンタの愛しい愛しい妹でしょうが」
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