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「そ、そんな・・・。でも、どうしてですか?若い頃は、愛し合っていたのに、ある人の仕事が忙しくても愛情を欠かしたことはない。なのに、どうして!」
「実は熟年離婚に至る心理分析は進んでいないのが現状です。経済的な余裕ができたからとか、浮気が原因とか、色々言われています。私の見解としては、興味が尽きたのが原因だと思われます」
「興味が尽きた?」
「はい。愛情というものも、欲望の一つです。欲望というものは、それを満たしたいという欲求からくるものです。ですが、その継続は永遠ではない。どんなに、心地の良い音楽でもずっと、聞かされ続ければ、苦痛に変わります。モノだってそうです。その時は、欲しくて、どうしようもなかったはずなのに、時間が経てば興味は薄れ簡単に捨てられます。愛情も同じです。どんなに、愛していても長い時間がその愛を薄めてしまいます」
「時が愛情を」
「愛は永遠という言葉はありますが、時の流れは無情です。その永遠ですら忘却の彼方に消してしまう」
「先生!どうしたら、いいのでしょうか?あの人のことは、今でも愛しています。ですが・・・」
「頭で分かっていても、心は動かない。不安になるのは、もっともなことです・・・が、ご安心ください」
医者は自信ありげに言うと、立ち上がり奥の棚から薬を持ち出してきた。
「これは?」
「これは、離婚防止薬といいましょうか。説明すると、ややこしくなるので簡単に効能だけを説明します。この薬は、人為的に記憶喪失を引き起こす薬です。・・・慌てないでください。記憶喪失を起こすといっても、全てを忘却させる訳ではありません。旦那さんに関わる記憶を一時的に忘却させるのです。ですが、存在自体が記憶が消えるという訳ではありません。完全に忘れてしまったら、旦那さんを不審者呼ばわりして、それこそ、離婚の引き金になります。これは、あやふやながらも旦那さんに対する愛情だけを残せるという薬です」
「そんな都合がいい薬があるのですか?」
「そうです。実は政府が熟年離婚の歯止めの切り札として、密かに開発した薬でして・・・。これを、処方すれば、旦那さんに関する記憶が一時的に消され、旦那さんを新鮮な目で見ることができます。若い頃とは違った旦那さんの魅力に気付くことでしょう。これで、冷めきった愛情は回復し夫婦間の関係は良好になるはずです」
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