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医者言われ、買ってしまった離婚防止薬。加奈子は怪しいと思っていたが、医者だって商売で仕事をしている。変な薬を政府のお墨付きで売ったりしたら、間違いなく逮捕されるだろう。
加奈子は自販機から飲料水を購入すると、薬と水を一気に飲み込んだ。
「これで、いいはずだけど・・・」
加奈子は薬を飲んで、すぐに異変が起こったことに気付いた。
「あ・・・」
急に加奈子の頭の中から旦那の姿が消えたのだ。完全に消えたという訳ではない。結婚をしていることも覚えている。ただ、相手がどんな人で、彼の何が好きで何が嫌いだったのか、どうしても思い出せなかった。
「本当に記憶が消えた」
医者が言っていたことは本当であった。旦那に関する記憶が消えた加奈子は妙に恥ずかしい気分になった。それは、まるで失ったはずの青春のトキメキでも思い出したかのようだ。
加奈子は自分がどんな相手と結婚したのか、それを知る為にも自宅まで急いで戻った。
「私はどんな人と結婚していたのかしら」
興奮が冷めぬ中、自宅へと戻った加奈子は一呼吸おいて、家へと入った。旦那が購入した家であり、長年住み慣れた場所だ。けれど、その記憶は曖昧なままだ。旦那に関する記憶がないからだろう。まるで、初めての家に来たような気分である。
「あら?ドアが開いている。先に帰ってきたのかしら・・・」
加奈子は玄関のドアを開けた。
「ただいま。あなたいる?」
加奈子は不安そうな声を上げながら、家へと上がった。よいよ、自分が結婚した相手に会えると思うと、彼女の鼓動は自然と早まる。
リビングに着くと、そこに一人の男性がいた。
「あなた?」
「!」
加奈子に声をかられた男性は驚いたように彼女の方を見た。
「・・・これが、私の旦那さん」
そこにいた男性は、実にスマートな人であった。こうして、直接、旦那と対面してみても、加奈子は旦那のことが思い出せない。男性は棒立ちの状態で加奈子の方を見たまま硬直していた。
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