97人が本棚に入れています
本棚に追加
流石に万の軍勢を率いる将は違った、二度打ち合うまで首が繋がっていたのだから。
多重に包囲を行い次こそは逃がすまいと攻めかかってくる。
左右から一軍が小勢を揉み潰そうと圧迫する。矢が降ろうと槍が突き出されようと、全てを力で弾き返し己の道を進む。
大将を失って動揺した軍を駆け抜けて、三度丘へと登った。
楚の軍旗が翻り健在が知らしめられる。
「何騎じゃ、答えよ!」
それまで隣にいた武将の姿が無くなっており、代わりの者が返答した。
「はっ、二十六騎に御座います、大王!」
痛みを堪え地の果にまで届きそうな声に満足し、項羽は大きく頷いた。彼は馬上から天を指してそれに負けない大声で告げる。
「見よ、我等騎兵はたった二十八騎で三度の突撃を行い、数千を討ち取り、数万の軍勢を退けた! 天よ聞け! 最強なるは楚王であるぞ!」
戟を棄てて剣に手を伸ばす。迷いなく切っ先を喉にあてると、自らの意志で馬上から飛び降りた。
二十六騎全てが主に従う。覇王の伝説に幕が降ろされたのであった。
最初のコメントを投稿しよう!