四面皆楚歌する

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 流石に万の軍勢を率いる将は違った、二度打ち合うまで首が繋がっていたのだから。  多重に包囲を行い次こそは逃がすまいと攻めかかってくる。  左右から一軍が小勢を揉み潰そうと圧迫する。矢が降ろうと槍が突き出されようと、全てを力で弾き返し己の道を進む。  大将を失って動揺した軍を駆け抜けて、三度丘へと登った。  楚の軍旗が翻り健在が知らしめられる。 「何騎じゃ、答えよ!」  それまで隣にいた武将の姿が無くなっており、代わりの者が返答した。 「はっ、二十六騎に御座います、大王!」  痛みを堪え地の果にまで届きそうな声に満足し、項羽は大きく頷いた。彼は馬上から天を指してそれに負けない大声で告げる。 「見よ、我等騎兵はたった二十八騎で三度の突撃を行い、数千を討ち取り、数万の軍勢を退けた! 天よ聞け! 最強なるは楚王であるぞ!」  戟を棄てて剣に手を伸ばす。迷いなく切っ先を喉にあてると、自らの意志で馬上から飛び降りた。  二十六騎全てが主に従う。覇王の伝説に幕が降ろされたのであった。
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