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旗本を率いる武将が馬を歩かせ隣へと近づいてきた。見惚れるような軍馬だ。
武具や城と同じく命を預ける馬は、武人の大切な道具であり友でもある。
項羽の祖父、父、そして三代に渡り忠誠を捧げてきた彼は言葉を添える。
「大王、我等会稽騎兵、故郷を離れてから天下統一無くして帰るつもりがございませんでした。しかし、もし命令であるならば、最後の一騎になろうとも大王をお守りし会稽へとお供させて頂きます!」
馬上から礼をとる。後ろに居並ぶ騎兵の耳目を集めた。言わずとも皆が同じ気持ちだと知っている。
真っ直ぐに項羽を見詰める彼等は一切の曇りがない。
進言することあれど、不平不満を口にしたことなど一度もなかった。
項羽は武将の瞳を覗き込み、そして目を瞑る。
「余が愚かであった――」
小さな声、だからと弱々しくはない。威厳が常にそこに存在していた。
「当に大切なのは、領地でも名誉でもなくそなたらであったわ」
思い起こせば十数年、若輩者を常に支えて従ってきてくれた、そんな彼らに一体何をしてやれたのだろうか。
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