四面皆楚歌する

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 一陣を抜けようとも、どこに向かおうとも、漢の陣が次から次へと現れた。数百人単位で集まり、周りを石で囲っている。  あちこちで敵襲の銅鑼が打ち鳴らされている。耳が痛くなるような金属音、不快な響きだからこその警報。  肩を寄せて守る漢の歩兵。そこへ無遠慮に戟を叩き付け蹂躙する。  極めて困難な乗馬戦闘を、まるで呼吸でもするかのようにやってのける。それも楚軍騎兵全員がだ。  一騎は十歩に値すると目算されされるが、互いの死角を補いあい休みを取られるならば百にも千にもなる。  文字通り一騎当千の光景が繰り広げられた。騎兵団は既に十を超える大将首を跳ねている。  項羽が率いる会稽騎兵は彼が言うように、百戦して百勝をあげており、ただの一度たりとも敗北したことはなかった。  最強無比の騎兵は熟練しており、本来ならば一人一人が騎兵ではなく騎将として通用する程の力量を備えていた。  だが旗本騎兵は誰もそうはならなかった、会稽騎兵で居たい、項羽と共に在りたいと強く願って。  空が少しずつ白み始める、山岳地帯にだけ残っていた闇夜もついに追い払われて行く。
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