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「あの山を越えれば平原で御座います」
近隣の地形を知り尽くした武将が助言する。指差す先には数え切れないくらいの敵陣が続いていた。
「うむ、行くぞ!」
しかし項羽の目にはそんなものは景色程度にしか映っていない。敵の怒声も雑音としか耳に入ってこなかった。
漢兵を草でも刈るかのようにあしらい先頭を駆け抜ける。戟から血が滴り落ちる暇すらなく、次々と新たに絡み付いた。
ちらりと振り返る。騎兵かなりの数が、追撃してくる敵を食い止めるために後方に踏みとどまっていた。
たった一人の男の望みを叶えるためだけに、多くの、あまりに多くの人が散って行く。
山間の陣地を幾つも幾つも破って、念願の平原へと辿り着いた。地平線の彼方まで緩やかな大地が広がっている。
馬に水を飲ませるために小川で休憩し、側近に騎兵を数えさせると数百が残っていた。
茂みから漢の兵が現れて奇襲を受ける。項羽は武将に促されて馬を平原に走らせた。
小川付近に殆どの騎兵が留まり、楚王が平原へ向かうのを目の端に捉えて追撃者を引き付ける。
あちこちから兵が湧いて出るが、軽く切り伏せて平地にある小さな丘を目指した。
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