四面皆楚歌する

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 歩騎数千が陣取る処へ果敢に切り込む。項羽の形相は鬼人と喩えられる程に凄まじく、近寄る敵を次から次へと薙ぎ払った。  体躯素晴らしく、大人と就学したての子供のような差があった。  圧倒的な暴力。尽きることの無い破壊。留まることを知らない気勢。  錐のように突き刺さると、好きな方向に穴を開けて足を止めることなく将の処へ進む。  大盾を並べて押し留めようとしても、真っ正面からまとめて敵を凪ぎ払う。  漢の大将が守りを固めようと命令を出す。戦列を埋める兵が前進した。  だが騎兵の歩みは速く、将の目の前にやってくる。項羽は一合と打ち合うことすらなく、大将首が宙を舞った。  一軍の将だ、戦いに身を置き生き抜いて功績をたてた男だ。それなのにこうも簡単に骸を晒すなど有り得ない。 「漢の弱将を討ち取った! 抜けるぞ、続け!」  これが現実かと疑う心の隙が生まれる。糸が切れた操り人形のように彼の指揮する漢軍の動きが止まった。  項羽らは脱出を図り小高い丘へと騎馬を走らせた。向かってくる気概のある奴は皆無。
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