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先生の手にある問題集を覗き込む私と、そんな私を覗き込もうとした先生の目が合う。
バチッと音がして、火花が散った…気がした。
そのまま二人の動きが止まる。
「……先生」
「…ん?」
いつもと違う空気が、二人の間に流れる。
そのまま、沈黙。
「……向井さんはさ」
沈黙は先生によって破られる。
「……はい」
「優しいよね…」
「は…」
いきなり出てきたそのワードに、空気が抜けるような声が出る。
「何ですか、いきなり…」
「いや、この1年を振り返ってそう思ったの」
「はは…」
先生が、今までに見たこともないような顔でいるから。
今まで見てきた、教師の顔じゃなくて。
今まで見せたことがない、男の人の顔でいるから。
私の胸が、今まで聞いたこともないような音を立てた。
「優しいって…。皆言うんですよ、『夏乃って優しいね』って。でもそんなことないし…」
「え?今なんて言った?」
照れ隠しに無意識に早口になっていたのだろうか、先生が私の発言を聞き返してくる。
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