プロローグ

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どうして職員室に入るのは、こんなに勇気が要るんだろう。 いつもより忙しなくはたらく心臓を必死で無視し、生唾を飲み込む。 ノックを3回。 ノック2回というのはイマドキは使わないらしい。 友人の亜紀から聞いた。 「失礼します、古賀先生いらっしゃいますか」 たくさんのデスクが並ぶなか、その人の姿を探す。 と。 私が入ってきたドアから見て一番窓際のデスク。 「はい」と言って、見覚えのある痩身が立ち上がる。 その人はガサガサと自分のデスクをあさり、ボールペンと何故かお絵描き帳を持って私に近づいてくる。 「じゃあ行こうか」 そう告げて、黒いセーターに包まれた背中を私に向ける。 「あ、はいっ」 つい威勢のいい返事をしてしまい、顔が熱くなる。 私の目の前に立つ人――古賀先生は驚いたように私のほうに振り向いた。 くすり、笑みを零すとまた前を向いてしまった。 再び見えた背中が、なんだかとても大きく見えたことを覚えている。
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