水面の空

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「少し休めよ」 「おう」 あいつはぷわりと浮いて空を見て 「あちぃ」 と呟いた。 「水は冷たいだろうが」 「まぁーな。早く海行きてー」 「……やるか」 「おう」 「飛び込みはまずいかな」 「だろ? 当然」 「ちっ……じゃあお前がスタートな」 俺が壁に片足を付けると、あいつは、 「んじゃ、行きますか」 と身体を縮める 「よーい」 もう、馴れたもので、後のタイミングは同時。  壁がみしりと歪むのを感じながら、水に解き放たれる。  ぐんと伸びてリズムを刻む。  あいつのようには羽ばたけないバタフライを一本。  ターンをして、バサロ。浮いたら背泳ぎ。  不安定で、何だか宙を掴むようなこれは、苦手だ。  掻いても掻いても、実感が無くて。  目算で片手を伸ばす。少し壁には遠くて、しくったと内心で舌打ち。 ――イケる。  ターンをした時点で15メートル差。  ドンっ  水と一体化しながら、勢いを一掻きに込める。  一蹴りで浮かびながら、ブレス。  潜り込む。  あいつに追い縋り、ターン。ドルフィンをして浮くまでの距離を稼ぎ、最後のクロールで鍔迫り合い。  ドンっ  タッチは僅かに俺のが遅かった。 「勝ったー。海行くぞ海」 「はいはい」 プールサイドに上がると同時に忘れていた重力がのし掛かった。 「…………」 振り返って、見た水面はただ、澄み切った空を静かに映していた。
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