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春を告げる花が散り、漸く木々が目覚めた。
柔らかな朝靄の中、遠くの山の端が光っている。
どの山も冬の白い装いを脱いで、真新しい緑の衣に身を包んでいた。
「おはよう」
目覚めた僕は、早起きの小鳥達に挨拶をする。
「おはよう。やっと起きたのかお前」
「早く支度しないとな」
「桜散っても起きて来ないなんてな」
次々と返してくる囀りに、苦笑する。
木々の枝には、碧い宝石があって、穏やかな空の色を映している。
人間が植えていった八重桜が向こうの方で満開だった。
「ああ、僕も新しい葉をつけなくちゃね」
これから、そよ風に歌ったり、小鳥とお喋りして、花を咲かせたり、実をつけたり、そんな皆を見たりして。
やって来た人間を見たり、脅かしたり……嵐とかは嫌だけど……でも、楽しい毎日が始まるんだ。
ぐっと地面を掴む。養分をゆっくり吸い上げ、芽吹く準備を始めた。
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