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避難ポットの方を向くと、一人の男性乗務員が僕達を呼んでいた。
「他の人は別のポットで避難済みです。さあ、乗って下さい」
男性乗務員の言うとおり、ポットの中は誰もいない。僕と父が中に入るが、彼は乗り込もうとしない。
「あなたはどうするんですか?」
僕が問うと、男性乗務員は苦笑した。
「本当は三人で乗務員用のポットで脱出しようと思ったのですが、先程のテロリストの射撃で壊れてしまいました。もう動くのはこのポットだけ。これはお客様用なので、外からしか動かすことが出来ません。」
「そんな……」
僕がそう言うと、男性乗務員が口を開く。
「私(わたくし)の使命は、あなた達を無事にミッドチルダへ届けることです。さあ、扉を閉めますよ」
彼が射出のレバーを下ろそうとした、その時だった。ここと客室を繋ぐ扉が爆発し、射撃魔法が飛んできた。
「うわあああああっ……!!」
自分を犠牲にし、僕達を助けようとした男性乗務員はテロリストの射撃に倒れ、彼からは夥(おびただ)しい鮮血が止めど無く流れる。
「そんな……」
絶望する僕とは無関係に、扉付近の爆煙が晴れようとしていた。
膝を地に着ける僕とは対照的に、父さんはしっかりとした足取りでポットの外へ歩き出す。
「……父さん?」
訳が分からず、僕は父さんに問うと、彼は振り返って口を開いた。
「ヴェスタ。お前は生きろ」
そう言って、父さんはポット射出のレバーを引いた。
「!?待って、父さんっ!!」
僕は父さんに追いすがろうとするが、僕達の間にシャッターが降りる。
「父さん!?父さん!!」
返事が帰ってくるはずもないのに、僕は只管(ひたすら)、父さんを呼んだ。
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