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「あの、鵲(かささぎ)さん?」
「なんだ?小野寺。」
事務員のバイトにも何となく慣れてきた小野寺鈴音(すずね)は何気なくたずねた。
「ここって、電話機はないんですか?依頼の時とかあった方が便利ですよ。」
「電話?」
『コワシヤ事務所』所長の鵲健悟は、足を組んで真面目な顔をした。
「小野寺、それには深い理由がある。それを聞く覚悟はあるのか?」
いつにもなく真剣な声。鈴音は家計簿をつけるのをやめて、顔を上げた。
「そんなに、深い理由が?」
「あぁ、俺の命に関わることだ。」
命に関わること。
肌に触れたものを『壊す』能力を持っている鵲が命の危機に襲われることはほぼあり得ない。刃物だろうと拳銃の弾だろうと肌に触れた瞬間に壊れてしまうからだ。しかし、それはすなわち、人間兵器にもなりかねないということを示している。
鈴音は鵲の能力を知っている数少ない人間だ。だからこそ、命の危機に関わる話をするのだろう。
鈴音は自然と膝の上に手をそろえた。
「実はな、」
「実は?」
「・・・電話機の、使い方が分からない。」
ある組織から狙われているため形跡を残したくないんだ、みたいなスパ 「実はな、」
「実は?」
「・・・電話機の、使い方が分からない。」
ある組織から狙われているため形跡を残したくないんだ、みたいなスパイ映画の展開を期待していた鈴音はなんかむかついたので、家計簿を投げつけた。が、もっとむかつくことに軍手をはめた手でキャッチする。
「おい!投げるな!」
「うるさい、黙れ。何?使い方が分からないから、電話ないって?アホか!現代に電話を使えない人類がいるわけないだろ!サルだって使えるわ!」
「そんなサル、いねぇよ!」
「じゃあ、鵲さんは人類失格。猿人類からやり直せ」
「前世からやり直せと!?」
ったく、どうせ金が払えないから電話線を引けないだけでしょ。
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