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「鵲さんには常識が足りないと思いませんか?」
電話機の話の一時間後、仕事も終わって帰ろうとしていた鈴音だったが、『イザナミ』に寄って文句を聞いてもらおうとコーヒーを注文していた。
「そうね。でも、もういい大人だからね。ここからの教育は無理なんじゃない?」
「そんなことないですよ。人間は一生勉強していく生き物なんですから。でも、あの人は猿人類だからなぁ。勉強能力もないだろうし・・・」
「そうかもね。」
村上は軽く笑うと、鈴音の前にチーズケーキを置いた。
「私、頼んでませんよ。」
「新作の試食よ。感想くれたら、タダでいいから。」
なるほど。それなら遠慮なく。フォークを入れるとふんわりとそれを受け止めて切れていく。うん、本来のチーズの味がする甘さ控えめのケーキだ。
「おいしいです。コーヒーより甘い紅茶とかの方が似合いそうですね。」
「ご意見、ありがとうございます。鵲さんには内緒ね。」
いたずらっぽく唇に指を立てる村上。歳は四十後半だと聞いているが、二十代と言っても疑われないだろう。動きは若いし、ちょっとした動作もかわいらしい。
村上は小首をかしげて、ここだけの話だけどと小さく言った。
「昔ね、鵲さんに三台ぐらい壊されてるの。電話機。」
「え?」
「リンちゃんみたいに鵲さんに電話の使い方を教えようとしたの。だけど、初めはよく分からないけど煙が出て壊れて、二台目はボタンの押しすぎでボタンが中に入り込んで使えなくなって、三台目は水をかけられて壊された。今度も壊されそうではらはらしてたのよ」
「・・・すいません。」
「リンちゃんが謝ることじゃないけど。」
鵲は機械音痴、と言うよりモノを大切にしない人じゃないかなぁ。どうやったら、発熱が目的じゃない電話機から煙が上がるんだろう。
「あっ、でも、コワシヤのホームページは?あれ、鵲さんが作ったやつじゃ・・・」
「私が作ったのよ。さすがに宣伝もしないのは可哀想だと思って」
「・・・すいません。」
「リンちゃんが謝ることじゃないって。」
本当にあのアホ所長は何をしているのだろう。家賃もかなり滞納しているみたいだし、食事はほぼ村上任せ。どれだけ、迷惑をかけたら気が済むのだろう。
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