1人が本棚に入れています
本棚に追加
鈴音がため息をつくと、村上はそれを見てつぶやいた。
「リンちゃんが来てくれるようになって結構変わったと思うの。」
「鵲さんがですか?」
「そう。」
男子三日会わざれば刮目してみよ、と言うが猿人類は数日で人間にはなれない。この数日で鵲にどんな変化があった?何もない。
「少し丸くなったと思うわ。」
「そうですか?初めからあんな感じですよ。」
めんどくさがりで、巨乳派で、壊すと言うことにほこりを持っている・・・小学生みたいな人。
「長い付き合いだから、分かるのかもしれないけどね。」
「そこまで分かるように、私はなりたくないです。」
鈴音はコーヒーをちびちびと口に含んだ。苦い味が口の中を締め付ける。村上が角砂糖を入れてくれた。
「リンちゃん。鵲さんをよろしくね。」
「え?」
「幸恵さん!俺にもコーヒー!」
タイミング悪く鵲は現れて鈴音の隣の席に座った。
「なんだ、小野寺。まだ帰ってなかったのか?残業手当は出ないぞ。」
「手当どころか、給料ももらってないんですけど。」
「お前は給料をもらうほどの働きをしていないだろうが。って、何?このケーキ!?」
「新作よ。」
「一番最初は俺だろ!」
「だって、鵲さんは美味いとしか言わないんだもん。」
「さすが、猿人類。語幹も足りないんですね。」
「まだ言うか!?」
「これ、食べていいですよ。」
鈴音は食べかけのケーキを鵲の前の置いて、ごちそうさまでしたと幸恵に言った。
「コーヒー代は鵲さんがおごってくれるそうよ」
「やったぁ!」
「コーヒー代ぐらい払いやがれ!」
「よろしくお願いしまーす」
「おい、こら!」
返事を聞く前に鈴音は店を飛び出た。
春の暖かい空気に浮き足立ちそうになる気分を押さえて、鈴音は自転車に乗った。
『鵲さんをよろしく』、か。
落ち着きのない子どもじゃあるまいし、旅行に出かける時にお隣に頼むペットじゃあるまいし。
でも、『よろしく』、ね。
鈴音は地面を軽く蹴って、流れ出した春の空気を大きく吸い込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!