電話機を、壊す。

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 鈴音がため息をつくと、村上はそれを見てつぶやいた。  「リンちゃんが来てくれるようになって結構変わったと思うの。」  「鵲さんがですか?」  「そう。」  男子三日会わざれば刮目してみよ、と言うが猿人類は数日で人間にはなれない。この数日で鵲にどんな変化があった?何もない。  「少し丸くなったと思うわ。」   「そうですか?初めからあんな感じですよ。」  めんどくさがりで、巨乳派で、壊すと言うことにほこりを持っている・・・小学生みたいな人。  「長い付き合いだから、分かるのかもしれないけどね。」  「そこまで分かるように、私はなりたくないです。」  鈴音はコーヒーをちびちびと口に含んだ。苦い味が口の中を締め付ける。村上が角砂糖を入れてくれた。  「リンちゃん。鵲さんをよろしくね。」  「え?」  「幸恵さん!俺にもコーヒー!」  タイミング悪く鵲は現れて鈴音の隣の席に座った。  「なんだ、小野寺。まだ帰ってなかったのか?残業手当は出ないぞ。」  「手当どころか、給料ももらってないんですけど。」  「お前は給料をもらうほどの働きをしていないだろうが。って、何?このケーキ!?」  「新作よ。」  「一番最初は俺だろ!」  「だって、鵲さんは美味いとしか言わないんだもん。」  「さすが、猿人類。語幹も足りないんですね。」  「まだ言うか!?」  「これ、食べていいですよ。」  鈴音は食べかけのケーキを鵲の前の置いて、ごちそうさまでしたと幸恵に言った。  「コーヒー代は鵲さんがおごってくれるそうよ」  「やったぁ!」  「コーヒー代ぐらい払いやがれ!」  「よろしくお願いしまーす」  「おい、こら!」  返事を聞く前に鈴音は店を飛び出た。  春の暖かい空気に浮き足立ちそうになる気分を押さえて、鈴音は自転車に乗った。  『鵲さんをよろしく』、か。  落ち着きのない子どもじゃあるまいし、旅行に出かける時にお隣に頼むペットじゃあるまいし。  でも、『よろしく』、ね。  鈴音は地面を軽く蹴って、流れ出した春の空気を大きく吸い込んだ。
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