オアシスの夜

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『オアシスの夜』 いつからそう呼ばれるようになったのか。 誰がはじめにそう詠ったのか。 あれは全国的な豪雨の夜だった。 川には濁流が荒れ狂い、道路には建物が流れ…… 時には人を飲み、龍のような速さで流れ行く水の脅威。 見るにおぞましい一夜を、なぜ彼らは口を揃えて"オアシス"などと呼するのか。 その理由は、当時を知っている者ならその言葉がたとえ初耳だったとしても深く頷き、やがて納得するだろう。 なぜなら──その日を境に日本の上空からは、一滴たりとも"天のお恵み"が降らなくなってしまったのだから。 じわりじわりと乾燥の糸口を広げていった日本は、まさに砂漠とも呼べよう土地へと変貌を遂げていたのである。 そんな風に砂漠化する日本にとって、豪雨に見舞われた前夜など、枯れた砂漠の中でただ一つ潤い透き通った水源を持つ、オアシス以外の何物でもなかったのだ。 数日間続いた日照りで、まず影響が出たのは農作物だった。
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