少年と少女

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学校を出ると、ポツリポツリと雨が降り始めた。 灘 行宏(なだ ゆきひろ)は、中学生のころから大切に使っている傘を広げた。特別な思い入れがある訳でもなく、 ただ黒いだけのこうもり傘だが、その地味さが景色に溶け込むようで落ち着く。 高校生になってからというもの、特に目立つような生活はしてない。ただ普通に友達がいて、時には一人でいることもあった。 彼女もいない。告白された事はあるのだが、どうも上手く絡まず、自然に終わりを迎えていったものばかりだった。 「そろそろ時雨時かな」 季節は秋に差し掛かろうとしている。時雨がきてもおかしくない時期にはなってきた。 と、自宅にも近づいてきた曲がり角で、行宏はどこからかすすり泣くような声が聞いた。 一度立ち止まってみる。 しかし、耳に入ってくるのは少々強さを増した雨音だけだった。 気のせいだな。 再び歩こうと、一歩前の水溜まりを派手に散らした時──頭の中で滴が弾けた。 視界は、地表へと叩きつけられる雨の道筋によって白く塗り潰されている。遠くのものはほとんど見えなくなっていた。 そのせいか、気付くのに遅れてしまった。 ──目の前には弱々しく直立不動する、少女の姿があった。 普段の自分なら多少首を傾げながら、何も見なかったかのようにその場を過ぎるが、少女が立っているのは堂々たる道の真ん中だ。痩せた面持ちとは、噛み合わない持ち合わせである。
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