雨止んで、また、嵐

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「世話になったな」 その言葉が耳に入った頃にはもう……行宏は遠く小さくなっていた。やがて暗闇に揉まれ、姿が見えなくなる。 しばらくぼーっと立ち尽くしていたが、背を向けると、次の目的地へ足を踏み出した。 何もあんな言い方しなくても…… 綺麗に編まれた繋がりは、案外簡単にほどけてしまう。その網模様が薄い分だけ、たった一切りで繋がりを断たれることもある。 その網模様を編むのは難しいのに。 すぐに森が開けた。考え事をしていると、時間はあっという間に経ってしまう。 崖の上に辿り着いた。こんなにも景色は広いのに、見渡す限りの緑やビルや人の姿は、視界に飛び込んでこない。 私には、もう何も無い。 あの雲の上にはどうやったら行けるんだろう。温かくて、どこか懐かしくて、苦しみとは無縁の世界のように思えた。 自分がみっともない。こんなにも大切なものに出会ってしまった。失いたくない。 最初から、ぐすぐすの緩い繋がりしか無かったんだ。 見下ろすと風が轟々と鳴いている。自分の足で、こんなにも登ってきたんだ。 心は宙に浮いたまま。 崖の上、体を風に委ねた。
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