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卒業式が終わり、
私たちは短い春休みに入った。
もちろん、毎日部活はあったけれど、珍しく休みもあった。
いろんな気持ちを抱えて、
それを全部包んでくれそうな優しい春。
私は最後の部活の休みの一日を桜井さんと過ごしていた。
「『元気でな』なんて言っておきながら、俺って……カッコ悪いよな」
私は黙って首を振った。
私たちは学校近くの公園にいた。
公園からは高台にある校舎が見える。
ブランコに揺られてみたり、
ベンチに座ったり、
二人には穏やかな時間が流れていた。
どんな会話をしていたかはもう覚えていない。
ただ、その公園に一時間ほど一緒にいただけで、
私たちの距離は思いがけない程縮まっていた。
体が冷えてきたからと近くの喫茶店に移動する頃には
私は桜井さんのことを『健吾くん』と呼んでいた。
彼が卒業したことで、
先輩という感覚が急になくなったのだろうか。
彼が私に告白をして、私がそれを断った。
……そんなこともまるでなかったことのように。
そして、同じように彼も私の呼び方を変えていた。
彼は私のことを―――
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