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メニューを捲る和紗の左手の小指の小さな傷が目に飛び込んできた。
初めて和紗と合った此の場所で、和紗が慌てて転んだ時に擦りむいた傷がまだ残っていた。
「……、小指の傷、残っちゃったね」
「あは、ドジった罰」
和紗はそう言って、笑いながら舌を出した。
……、和紗、抱きしめたい。
そんな感情を深い呼吸で誤魔化していたんだ。
「好きなんだ!」と、叫びたくなる感情が暴れ始めていた。
メニューを捲る和紗の顔に視線を移すだけで、胸が締めつけられていく。
……、臆病者。
自分自身を嫌う瞬間。
この瞬間が堪らなく嫌だった。
和紗の笑顔を見る度に、この感情と闘っていたんだ。
「あなたを愛していける自身がないの」
あの日、君に言われ言葉が脳みそを掻き分ける。
「あなたが嫌いとかじゃなくて、あなたの真っ直ぐな愛が、私には勿体無い……」
……、どうしろと。
ずっと、考えてきた。
来るはずのない、君を待ちながら……、考えていた。
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