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「……、ちゃんとしたいんだ」
「なにを?」
「……、臆病で女々しいオレを」
「……、うん」
健太の横顔に見える瞳は真っ直ぐ桜の枝を見つめていた。
「1ヶ月後の三月十四日、此処で会って欲しい」
「うん、わかった」
「……、ちゃんとするよ」
「えっ?」
「……、臆病なオレを捨てて来なきゃ」
健太は私を見つめながら、優しく笑ってくれた。
飛び込みたくて、健太の胸に飛び込みたくて、仕方なかった。
「その頃は、桜はまだ咲いてないけどね、オレの中では此処が一番の思い出の場所なんだ」
「……、そうだったんだ」
「……、うん、そう」
健太は桜の枝を眺めながら煙草に火をつけた。
紫煙がゆっくりと運転席の窓に吸い込まれいた。
健太は煙草が良く似合う、と思いながら横顔を暫く見ていたんだ。
健太に全てを預けて、私は1ヶ月後の今日を待ちわび始めていた。
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