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でも、そうだな。
残ってるものは、あるのだろう。
技術だったり、建造物だったり、貰ったものだったり。
「俺にも残せるものはあるのか? 消えてしまっても、ここに生きていたって事、証明できるのか」
本音が漏れた。
俺は結局、消えたくないのだと思う。
神なんて、わけのわからない途方もない存在に全てを否定されたくないのだと思う。
「私はその手段を知らない」
だろうな。
「だが、時間はまだ残されている。何かをしていく事は出来るだろう」
「相手は神の作ったシステムだ。俺なんかで、干渉出来るとは考えられないな」
だから、無駄だと。
多くの消失者がそうであったように、俺も諦めるように自分を説得し続けてきた。
祁答院にも、経験がある筈だ。
「立ち止まるのは」
なのに、そいつは少しも躊躇せずに言う。
「消えてからでも遅くはないと思わないか?」
消失すれば、時間ごと俺という存在が凍結される。
飽きる事すら飽きてしまう程の停滞がそこにある。
それまでは、抵抗してみろと?
「……人間が希望なんて持っても、この世界では絶望のスパイスにしかならないぞ」
「絶望もまた、希望の種になる」
くらいくらいみちをあるきつづけて、そのさきでひかりをみることができるなら、それはさぞ──。
「私たちは消える為に生まれたのではない筈だ」
──うつくしいこうけいなのだろう。
「明智光秀くん。私と共に、人生を自らの手で完結させないか」
いつの間にやら、祁答院が目の前まで迫り、此方に右手を差し出していた。
『人生を自らの手で完結させないか』
その台詞が何度も脳内で繰り返される。
仰け反りそうになり。
「か……」
が、踏ん張って。
「か?」
「仮入部が可能なら、考える!」
汗でナイアガラの滝もかくやとなりつつある背中をピンと伸ばして、祁答院のサファイアの瞳を真っ直ぐ見返した。
「大歓迎だ」
祁答院は花が咲いたように破顔して。
「ようこそ、終活部へ」
俺はそこに光を見たような、そんな気がした。
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