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とりあえず、まぁ。消滅予告が届いたからと言って、俺の木漏れ日のようなささやかな日常が急変するかと言えば、そうでもない。
実感が湧かないとか、まだ日数があるなぁなんて能天気に構えていられるのもあるけど、消滅予告が届いたらって想像は結構な頻度でしていた。
「日常に溶けるように消えていく、か」
昔は、身内が消滅させまいと奮闘したり、今生の別れまで贅の限りを尽くしたり尽くしてもらったり、中には黒い噂で聞いたことしかないけど、軟禁されて消滅までの経過を観測されたりなんてあったらしいが。
「……学校、行くか」
ただ無為に嘆く為に休んだって仕方ない。制服に着替え、トーストに目玉焼きを乗っけた軽い朝食を腹に入れて(勿論、パズゥ式で戴いた)、部屋を出る。
「今日は珍しく、あいつが来なかったな」
いつもなら、ふてぶてしく朝ごはんをたかりに来るのだが、何かあったのだろうか。
ここは寮だ。日本都市、残り少ない生存者の居住区画──通称、ノア寮。
地球から徐々に人が消えていると認識してから早10年。暴動、抵抗、鎮静、平穏。世界は目まぐるしく変遷していった。
例えば、俺が現在住処としているこのノア寮は日本中から生存者が集められた、要は生き残りである俺達に用意された終の住処だ。
それだけ、人口が減った。名残を惜しんでくれる身内も、自由に使える財産も、生への執着も──疲弊した人類には残されちゃいない。
当初、人類存続を賭けた方舟だったここも、既にその役割を放棄している。ただの延命措置。
大海原に浮かぶ仮初めの楽園も、やがては逃れられない波に呑まれて朽ちていく。
生き長らえて、死ぬだけ。
死にたくないから、生きる。
きっと、そんなことに意味はないって、誰もが解ってた。
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