プロローグ

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  ここ、日本都市は旧名で呼ぶ所の東京都と千葉県の境あたりにある人類が築き上げてきた技術の粋を集めたハイテク都市だ。 何がハイテクって、働かずして生きていける辺りが素晴らしい。 セントラルなんていう建物全体がコンピューターみたいな場所に管理された広大な地下プラントは機械のみの運営で食物の安定した供給が見込め、エネルギーに関しても各地の水源で発電したものを引いてくるだけで激減した人口分は余裕で賄える。 製造も加工も供給も、人の手が要らない。 精々俺が働くことがあるとすれば、廃れた町のなかで娯楽品を漁るとか、寮の食堂に行くとか、消える直前の飼い主に世話を任されたペットに日々の糧を与えるくらいだ。 「余生を存分に満喫しなさいってこった」 必要なことをする必要が無くなって、残された時間を意識するようになってから、いつでも思う。 なんて無意味なのだろうか、と。   それが、なんの為に必要だったのかさえ、もう思い出せない。 「消える事には意味があるなんて、皮肉なもんだよな、ほんと」 呟いたら、もうとっくのとうに枯渇したと思っていた虚無感がじわじわと染み出した。 気を紛れさせようと、なんとはなしに左腕に嵌めた腕時計で時間を確認する。 「うわ、大遅刻じゃん」 道理で、あいつが来なかったわけだ。 夜更かしをしても、遅刻なんて滅多にしたことない筈なんだけどな……なんでだろ。 「誰かが、居たのかも」 なんてな。女だろうと男だろうと、起こしてもらうのは勘弁願いたい。
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