173人が本棚に入れています
本棚に追加
学校への登校義務は有って無いようなものだ。
管理する人間が圧倒的に足りていないし、どうせ人類は遠からぬ未来で滅ぶ。
30日後も知れぬ身で、未来の展望を描けるものか。
なのに。
閑散とした廊下を歩いて、人の声が漏れている教室の扉を開くと、そこには俺と同じ学校の制服に身を包んだ十数人の学生の姿があった。
教壇には、年若い第二種人類の教師の姿もある。
黒板には数式が並べられていて、授業中だとお見受けする。
ふむ。ならば。そうだな。
「おはよう、諸君。俺だ」
挨拶は大事だからな。
そして、俺に集まる視線。
第二種人類が半数を占めるこの場で目立つ事をするべきではなかったと俺は猛省した。
「おはよう、土岐君。授業中だから、早く席に着いてくれる?」
第二種人類が何事か語りかけてきているようだが、俺には何も聞こえない。
俺は速やかに窓際最前列の席に着いた。
いつものように、俺は窓の外を眺めながら授業を聞き流す。
ここにいる全員、大人になるまで生きられるのかも解らない。
約一名、大人が紛れ込んでるけど。
こうして、過去に数えきれない人達がそうしてきたように学校に通うのは、そのいつもを過去に置き忘れないようにする為なのだと思う。
自分達が生きている事を、お互いに証明しあうのだ。
「消えても、誰にも気付いて貰えないのにな」
ぼそりと呟く。
期限が訪れて消えてしまえば、大事だった人でさえも俺達は覚えていられない。
消えてしまったことにすら、気付けない。
喪失による悲しみを引き摺らないのは良いことなんだろうけど、遣り切れないよな。
最初のコメントを投稿しよう!