雨のち星空

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ー安藤 六ー 変わった、女だった。 いや、見た目が、とか、言動が、とかではない。見た目は普通よりよっぽど可愛らしい面立ちで、何方かと云うと別嬪と呼ばれる部類に入っていると思う。服装にも乱れは全く無い。言動も、何ら可笑しな所はない。穏やかに微笑んで、少しばかり口数の少ない大人しめの女。付け加えるならば、年齢にしては妙に話し方が大人びていたことくらいだ。 彼女の何が変わっているかと聞かれたらきっと俺はその理由を的確に答えることは出来まい。ただ、彼女と初めて会った時のあの瞳の色が俺には未だに忘れられない。 六月のある日。 水無月とは名ばかりでざあざあと降り続ける梅雨の厄介な雨に嘆息しつつ、俺はジャンプ式の傘を広げて頭上へ持ち上げた。下足室から一歩踏み出すと、煩いくらいの音量で黒い傘が雨粒を跳ね返していく。 「安藤先輩ぃ!」 数本歩いた所で聞き覚えのあり過ぎる声に呼び止められて、俺はそれに応えるか否か数瞬逡巡した。が、しかし。 「ふふ、今無視しようとしたでしょう?彼奴のこと。」 音も無く俺の隣に立って俺を覗き込んでいた同級生の姿に俺は否応なく仰け反った。この意地の悪そうな笑みを浮かべるのは、俺の小学校以来の友人であり好敵手でもある、糸部 暁(いとべ あかつき)である。
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