雨のち星空

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「でも今時、安藤先輩みたいな方って珍しいですよねぇ。」 暁の隣の席に腰を降ろしながら稲瀬が呟く。…………稲瀬、髪が有らぬ乱れ方をしているぞ。どれだけ必死に走ったのだ、あんたは。 「んー?りっくんの何処が珍しいの?……まあ、りっくんは面白いけどね。」 暁はやはり頬杖を付きつつ稲瀬に問う。 しかし稲瀬側の腕は彼女の前髪を直してやっている。暁は何だかんだ云っても結局は良い奴なのだ。心根が優しいと云うか、真っ直ぐと云うか。けれど、お前とて彼女を持つ身だ、余り誤解を招く行動は慎め。新島は素っ気無く見えるが案外お前にべた惚れなのだからな。彼女を傷付けるような真似はくれぐれもするでないぞ。 「えー、何処がと云われますと説明しにくいですが。ほら、極度の堅物なところとか、あとは、……口に出してはいないけど心の中で凄い何かを説いていそうなところとか、ですかね?」 稲瀬は小首を傾げながら暁に向かって云う。 「だって。りっくん。」 稲瀬の言葉を受けて、暁がにやにやと笑いながら俺の方を向いた。 「…………は?」 「いやいや、は?じゃなくて。第三者の意見は有り難く聞いた方がいいよ。」 正直、稲瀬の前髪に気を取られていた俺は、稲瀬と暁の会話は耳に入っていなかった。 「何、まさか聞いてなかったとか?」 そのまさかである。 答えあぐねて黙っていると、暁はその沈黙を肯定と捉えたらしい。いきなり腹を抱えて笑い出した。 「あははははっ!もう何なの!?りっくん面白過ぎ、勘弁して!」
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