雨のち星空

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考えても詮無いそんな事を俺が悶々と考えているうちに、暁と稲瀬の間では話が進んだらしく、何時の間にかカフェを出る事になっていた。 会計は高校生組で請け負うことになった。稲瀬は始めの内こそ遠慮したが、俺が、余りにもしょぼくれている漣を慰めて来い、と声を掛けると、ぺこりと一つ頭を下げて、カフェの出口付近に佇む漣の隣に並んだ。 ーーーーああして見ると、漣と稲瀬も似合いの恋人のように見えるのだが。そんな気配はないのだろうか。まあ、奴らは今年は受験生だからな。色恋に現を抜かして勉学が疎かになってはいけん。 俺と暁で割り勘と云うことになって、伝票に記された値段の丁度半分の金額を暁が財布から徐に取り出して俺に差し出した。 「はい。じゃ、あと残り宜しくね。」 「相分かった。」 一つ頷いて俺も暁とぴったり同じ金額を財布から出す。今日は偶々小銭を多く持っていたから良かった。 「ねぇさ。」 カフェの出口付近で談笑する漣と稲瀬を眺めて、暁が何とは無しに呟く。 「あの二人、葵井(あおい)受けるみたいだよ。」 「………そうであろうな。」 受験の事だろう。あの二人は現在中学三年生だ。来年には、否応無く受験者となる。 漣とは、暁に負けないくらいの長い付き合いであるし、稲瀬とも漣を通じて顔を見知ったのだから、結局は俺たちは皆相当長い付き合いになる。そんな俺たちが同じ高校と云う形で集うのは、至極通りであるわけで。 「でもさ、初音ちゃんは兎も角、漣が受かるかな。うちの高校。」 暁の言葉に、俺も思わずへらへらと締まりのない漣の笑い顔に目を遣ってしまう。 俺自身が云うのも何だが、"うちの高校"こと葵井高校はある意味難関だ。元より葵井高校はやさぐれた男共が集う、手に負えない男子の投げ込み寺ならぬ投げ込み学校のような立ち位置であったそうだ。男子校が共学校になったのは今から約二十年程前だと云う。そして、年々偏差値も上がり、今では共学校としてそこそこ名の知られた有名校となっている。
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