雨のち星空

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漣は、何かと云えば俺や暁に付いて回り、時折、本気で此奴は受験する気があるのかと思うことがある。一方稲瀬は去年の秋辺り、そうだ、丁度暁が新島と付き合い始めた頃から、塾に行き始めた。 「………神のみぞ知る、だろうか。あとは、本人の運次第と云ったところか。」 このままでいれば、漣の葵井高校に合格などする訳がない。もし仮に受かってしまったとしたら、全国の受験生諸君に俺が代わりに頭を下げに行きたいくらいだ。 「うん。やっぱりそうだよねぇ。……漣、彼奴、大丈夫かな。」 普段は何方かと云うとおちゃらけた性格の暁が、珍しく神妙な顔付きで、出口付近で無邪気に稲瀬と共に笑い合っている漣を見遣った。 「だが、しかし、俺たちが気を揉んでも何にもなるまい。……ただ、彼奴は親教師より俺たちの云うことを聞くからな。いざという時は俺たちが漣の尻を叩いてやればよかろう。」 俺の言葉に、暁はへらりと笑った。 「そうだねぇ。鞭かなんか用意しとこっかな。SMプレイ、なんちゃって!」 「お前の場合、なんちゃって、にならないからな。止めておけ。」 俺は心底心配になって暁を今のうちに制した。一瞬、漣を片足で踏みつけて鞭を振るって高笑いする暁の姿が想像出来てしまった。……末恐ろしい。 そんなことを話して居るうちに、前に並んでいた客の会計が終わり、稲瀬と漣は楽しげに話しながら外へ出て行った。 暁は、外に出た彼らの背を追った。俺は、暁から受け取った小銭と、自分の財布から出した全く同じ金額の小銭を合わせてトレーに乗せて店員へ差し出す。釣銭の欄に、0、と記入されたレシートを受け取り俺もレジに背を向けた。
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