プロローグ

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 もちろん、「不老因子」は「癌」の原因となる遺伝子のエラーについても補修を行う機能を有しています。ですから、「不老因子」を持たない群よりは、明らかに「癌」への耐性は高い…ハズなのですが…「癌」と一言で表現しても、「癌」の原因もそのタイプも、様々です。同じ遺伝子の損傷でも、ある人では「癌」となっても、ある人にはなんの悪さもしない単なる不要な細胞に過ぎない…ということが往々にしてあるのです。  「不老因子」は、そのナノという極微小なサイズの中に、我々の持つ技術の粋を注ぎ込んで、高度なアルゴリズムによる判断の上で、細胞や遺伝子の修復を行うかどうかを判断できます。…しかし、「癌」の原因やパターンが余りにも多様であるため、へたに無差別に修復を行おうとすると、逆に細胞を「癌」と化してしまうことがあるのです。  ですから、優れた「不老因子」といえども「癌化」というタイプの「老化」を完全に防ぐことはできません。  我々が予想する以上に、「老化」の中に占める「癌化」の割合は大きなものでした。  何故、こんなにも「癌化」が起きるのか?  それは…内分泌撹乱物質、いわゆる「環境ホルモン」の影響なのです。  20世紀後半に、「環境ホルモン」という言葉は庶民の間でも深刻な問題として話題になったことがあります。その後、天災や凶悪犯罪、テロ、戦争…など、それ以上にショッキングな事件が日常を埋め尽くしたために、全く解決していないにもかかわらず、一部の研究者の口にのぼりはしても、庶民の話題となることはなくなってしまいました。 ・・・
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