第1章 彼を知り…

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 そして…現在の時刻は、同日の午前8時を少し回ったところ。  窓の外には、濃い灰色の油絵の具を乱暴に塗り重ねたような…荒々しい雨雲が、遙か彼方までを覆っている。  窓を開けた途端、恐ろしい程の雨音が耳朶を叩き…イシュタ・ルーは慌てて窓を閉めた。無駄なくらいの防音仕様なだろうか…窓を閉めると、雨音は嘘のように静かになる。  「楽しくない!………これじゃ、お馴染みのフードショップのおじちゃんからクッキー貰いに行けないジャンよぉ。ぶぅ~っ!」  「…て言うか…この雨じゃ…誰も外に出ようなんて思わないわよ。何か残念ね」  イシュタ・ルーの不平の言葉に、慈雨も窓の外を見て呟く。  一瞬窓を開けただけなのに、室内の湿度はたちまち耐え難いものとなった。  アスタロトたちも、数多のプレイヤーたちと同様に、カウントダウンで馬鹿騒ぎをしようと「はじまりの町」の町庁舎に集まっていたのだが、10分間の強制待避で肩透かしを喰らってしまった。  それだけなら気まずく互いの顔を見合わせるだけで済んだはずなのだ。  しかし、10分間もの間、アスタロトと引き離され…誰とも接触をできなくなったイシュタ・ルーがどうなるか…チュートリアル・レイヤーでの事件を思い出して欲しい。  バーサーク状態となったイシュタ・ルーは、強制待避の解除にも気が付かず、カウントダウンのために集まっていた会議室が半壊しかねない勢いで暴れ回ったのだ。  バーサーク状態のイシュタ・ルーの強さは未知数だが、タウモン(タウン・モンスター)の「餓鬼」たちに拉致された時に、最強のタウンボスである【天の邪鬼】とも渡り合ったらしいから、相当に強いことは間違いがない。 ・・・
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