ドミノ地獄

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 ここでは、大勢の人がドミノを並べていた。ただ、互いのことを知る者はあまりいない。私の周りだけでも、ドミノを並べている人は二十人もいた。ドミノを並べている間、互いに無口になり自分のことに集中している。  手持ちのドミノが無くなれば一旦、休みとなる。それでも、気は抜けない。自分達の周りは、すでにドミノで囲まれていた。万が一、移動している最中にドミノを倒してしまったら。そう考えると、恐くて立ち位置から動くことはできなかった。だから、私はその場で、タバコを吸って気を紛らわすようにしていた。それに、休みといっても、そんなに長くない。五分もしない内に、新しいドミノドミノがドミノの合間をぬって運ばれてくる。それを受け取ると、また並べる作業を再開する。作業は強制ではない。しかし、やなければ、やらないで一定時間ごとにドミノが運ばれてきて、自分の周りはドミノで溢れてしまう。その内、溢れたドミノが、並べられたドミノに触れたりでもしたら。想像しただけで、身震いをしてしまう。だから、黙々とドミノを並べ続ける他ない。  やがて、終了のベルが鳴る。ベルが鳴ると、並べられたドミノは一斉に動かなくなる。それは、ドミノ板が普通の木製ではなく、金属で出来ているからだ。ドミノが並べられている台には電磁石が仕込まれており、終了の合図と同時にドミノをしっかりと固定してしまう。こうなっては、人の力で動かすことは不可能となる。この時間がくると、私達は安心して、その場から動けるようになる。  個人の荷物はロッカーにしまわれている。私は自分の荷物を回収して、そこを後にした。  帰る途中、私は上の階層でドミノを並べている同期の島根と会った。私達は、居酒屋に寄っていくことにした。 「しかし、俺達はどうして、こんなことをしているんだ」  酔った勢いで島根がそんなことを口走った。私は軽い酒をちょっとずつ飲みながら相槌を打ってやった。 「知らないよ。もう何百年も続いていることなのだから」 「だがよ。来る日も来る日もドミノを並べ続ける。その作業に何の意味があるんだ」 「分からん。昔、学校の授業で世界平和がどうとか言っていたが、私には理解できない」
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